粘膜における偽膜形成

粘膜における偽膜形成のような病変も生じない。これは一見不思議なようであるが、つぎのように考えられるだろう。咽頭粘膜に定着したジフテリア菌が粘膜の上で毒素を作ると、この毒素によって粘膜組織の壊死が小規模に起こる。この壊死は、肉眼では見ることができないほど微小なものと考えられるが、粘膜組織の壊死の結果、毛細血管の中にあった血液とともに抗体も病巣の中に流れ込んでくる。そこで毒素は中和され、毒素の毒作用はそれ以上発揮されることがない。つまり毒素が組織に壊死を起こさせるやいなや、毒素は却の抗体によって中和されてしまうので、肉眼で認められるような大きな病変は作られないという結果になる。

もちろん毒素は心臓に到達する前に中和されてしまうので、心不全で死ぬことはない。一方、ジフテリアから回復した人が獲得する免疫の本体は、血液の中にある貧の抗体のほかに、粘膜に分泌される貧y抗体というものも加わる。さらにこの場合には、毒素を中和する粘膜分泌抗体のほかに、ジフテリア菌が粘膜に定着する上で役に立っていると考えられる、菌表面にある別の抗原に対しても、この粘膜分泌抗体が作られると考えられしたがってジフテリアから回復した後に得られる、病後免疫といわれるものをもっている人の粘膜には、毒素を作らないジフテリア菌の定着も起こりにくくなっていると想像される。