そのままの島の風景

また東京でも、例えばJR線の車両でドアの上に貼ってある案内路線図のローマ字表記が非常に小さいことに気づく。日本語表示と比較すると、フォントの大きさは実に9分の1。これでは乗車中に「今どのあたりを走っているのか」「本当にこの電車でいいのか」と不安になっても、よほど近づいて確認しないとわからない。2008〜9年にギリシャで放映されたテレビ番組「Big In Japan」で、日本を訪れたギリシャ人が自力で指定された目的地にいけるかどうかチャレンジする企画があった。演出もあるだろうが、これが困難を極めていた。イギリスBBC制作の人気テレビ番組「Top Gear」でも、日本の公共交通機関を利用して目的地にたどりつけるか挑戦する回(2008年放映)で、レポーターが電車の乗り継ぎがわからなくて手間取ったり、反対方向の電車に乗ってしまうなど、混乱に陥っている様子が映し出された。

ギリシヤの交通機関はこの点がうまく考えられている。多くの国際空港のなかでも外国からの入国者数トップのアテネのエレフセリオスーヴェニゼロス国際空港は、外国人が個人で降り立っても問題がない。理由は英語表示が整っていることと、置いてあるルートマップが分かりやすいことだ。それで初めての観光客もアテネ市街に出たり、周辺を公共交通機関でまわることが難しくない。自動車道についても最近は整備が進み、田舎の道にも必ず英語標識がある。日本人個人旅行者曰く、レンタカーを借りてあちこち回るのは難しくないということだ。

2010年11月、ミコノス島はロンドンで開催された欧州最大規模の観光博覧会で「ベストーヨーロピアンーアイランド賞」を受賞した。これは世界的に人気のあるアメリカの旅行雑誌の読者投票によって選ばれる賞で、地中海リゾートとして名高いイビサ島マヨルカ島などを引き離し、7年連続で賞を獲得した。また発行部数90万部を誇る高級旅行誌の2011年度の投票でも、ワールドーペストーアイランドとしてトップに輝いたのはサントリーニ島。これらの投票理由には、美しいビーチがあるというだけでなく、観光客がその島独自の景観を眺め、日常を離れたリゾート気分を満喫できるからというものが挙げられた。

ギリシヤ観光のふたつめの特徴は、景観の保存である。日本でも町並み保存として、近年同じ取り組みがなされているのをご存知の方も多いだろう。クレタ島やロドス島などの代表的な島には一部、アメリカ式の大型ホテルがあるが、ほか大半の島々の建築物は伝統的な造りが保たれている。代表的なのはサントリーニ島の洞窟式(キクラデス様式とも)ホテルで、各々が断崖に沿って建てられた一軒の家の造りになっており、建物の奥の部分は断崖を掘り進んだ洞穴空間を利用。構造上、2〜3階建てがせいいっぱいのため、宿泊者数が多くなく、同フロアに部屋が幾つかあっても別階段で出入りするため、いわば「離れ」のような落ち着いた雰囲気を味わいながら過ごすことができる。

景観の保存には、島に住む一般の人々の住宅も含まれる。サントリーーニ島のイアでは高層建築が禁止されており、先の洞窟式を守ることが推奨されている。また色調は白い壁、木の窓枠は青が基本などと細かく決められている。このような条例がない所に比べたら、建築や修理費用は何倍にも嵩むそうだが、それでも島全体のメリットの方が大きいと、中央行政機関の決定を待たずに、市町村の行政レベルで進められている場合が多い。実際、市長や市議会議員なども、ホテルやレストーフン、カフェなどの経営者であったりして、観光を促進することが第一なのだ。こういった仕組みで青い海、青い空と白い家並みというコントラストが保たれている。