多くのウイルス病は、ウイルス粒子ができる

多くのウイルス病は、ウイルス粒子ができると同時に宿主細胞が溶解してしまうが、これらのウイルスでも、どこかで宿主細胞あるいは宿主自身を直ちに殺さないような仕組みがあるはずである。ウイルスも、ウイルス粒子を作る増殖よりも、宿主細胞の一部として宿主細胞と共存しているほうが安定した存続が期待できると考えられる。ウイルスが感染する細胞の多くは分裂能力をもっていて、病後、宿主はウイルスの感染を免れた同種類の細胞の増殖によって破壊された跡を修復できる。しかし分裂能力のない種類の細胞がウイルス感染によって破壊されると、その細胞が司っていた機能が回復しない。

宿主細胞の中でウイルス粒子を作らないかたちの感染では、宿主細胞を分裂増殖させるように働く場合もある。ある種類のウイルスが腫瘍の原因となるというのも、ウイルスの種族保存の戦略のひとつの表現型であろうか。感染環の維持という点からは、ウイルスによる感染症や伝染病も、表面的には細菌による感染症や伝染病と同じように取り扱える。

また、ウイルス粒子に対しては免疫グロブリン抗体が反応できるが、宿主細胞のなかに存在するウイルスは、キラーT細胞という特別なリンパ球によって宿主細胞とともに殺される。これと同時にウイルスに感染された宿主細胞は、自らもアポトーシスという、一種自殺に類する反応を起こすことによって、ウイルスの害がさらに拡大されることを防ぐようである。