「不公平税制」としての法人税

課税の公平、不公平を判断しうるのは、おそらく自然人としての納税者だけであろう。そこで不公平税制の是正が最も大きな問題になるのは、所得税の世界においてである。ところが、大企業ほど税制上優遇され、税負担も本来のレベルより低すぎるという批判が、世間で根強く存在する。これは明らかに「実在説」の発想にもとづき、大企業ほど担税力が大きく、より税金を負担すべきだという主張につながる。

このように所得税と同様に、法人税を「不公平税制」の視点から評価するのにぱ全面的に賛成しえないが、しかし検討を要する問題も存在する。それが課税所得金額の算定にあだっての損金算入、つまり費用の範囲がどこまで認められるかの問題である。費用の範囲が拡大するほど、課税ベースは縮小され法人税の算出額も小さくなる。かりに、大企業ほど中小企業より認められる費用の範囲が大きいとすれば、やはり課税の公平感が損われることになろう。

損金算入にあたり最も議論をよぶのが、引当金、準備金の処理の仕方である。両者とも将来において発生または発生する見込みのある費用や損失のために、税法上あらかじめ損金として計上されるものである。現在法人税法において、引当金の繰入れについては貸倒引当金、賞与引当金、退職給与引当金などの六つが規定されている。

この引当金の方は、その狙いが明確である。つまり費用・収益対応の考え方にもとづき、将来見込まれる特定の費用や損失を当期の費用と認められる範囲内で損金算入として計上することになる。賞与や退職金の例から容易に、費用性の引当だと納得できよう。

問題は、準備金の積立ての方にある。これは特定の政策目的のために税法上特に認められるもので、租税特別措置法により規定される。具体的には、輸入製品国内市場開拓準備金や海外投資等損失準備金などが主なものである。

将来確実に見込まれる費用や損失に対する準備というより、どちらかというと利益隠しのための損金算入ではないかと、疑われる面も否定できない。高度成長期には準備金はかなりの規模で認められていたが、かかる批判に答え、近年、価格変動準備金をはじめ、かなり廃止された。

法人税の課税ベースの算定にあたり、更にもう一つ問題になるのが特別償却の損金算入である。特別償却というのは、特定の政策目的から設備の取得を促進する狙いで、通常より多額の減価償却費を損金として認め、設備導入時の税負担を軽減する制度である。たとえば電子機器利用設備や事業基盤強化設備を取得した場合に、この特別償却が税法上認められる。

引当金の繰入れ、準備金の積立て、そして特別償却の利用状況を企業規模別に調べると、大企業ほどこれらの制度を活用している割合は大きい。かかる点に注目して、法人税は「不公平」だと批判されることがある。これらを廃止すれば、何十兆円にも及ぶ新規の税収が挙げられるから、法人税の「不公平税制」を是正すれば消費税など不用になるといった乱暴な議論も、時折見かけられる。

しかしながら、「不公平税制」の元凶とされる制度の多くが、法人税の基本的仕組みに係わるものであったり、大企業ゆえに発生する費用とも関連している。実際の費用発生と大幅に乖離した引当金や準備金のルーズな利用や、寛大にすぎる特別償却などは、厳格にたえず見直されねばならない。しかしこれらの制度そのものを「不公平税制」ときめつけるのも問題であろう。