日本の雇用の最大の問題点は何か

いずれにしても、正社員願望がますます強くなることは間違いないだろう。身近な学生などの若者を見ていてそう思う。そのため、ブラック企業のように労働条件の悪い会社でも、若者が「正社員にしてくれ」と殺到する可能性は十分高い。人口減少・高失業率時代を上手く乗り切るために、どういう政策が必要かを考えることにする。企業が広告費を抑制しだしたことで、マスコミが企業に対して遠慮しなくなったこともあるのだろうか、ここにきて「製造業派遣を禁止すべきだ」「企業にもっと責任を負わせるべきだ」という議論が強くなっている。果たして企業に対する取り締まりを強化することだけで、雇用情勢は改善するものなのだろうか。

政府がどういう政策をとるべきなのかを考えるに当たって、もう一度何か問題なのかを整理しておこう。今後5年間もしくは近未来的に重要となる雇用問題は大きく四つに集約されるだろう。第一に、本書のテーマでもある人口減少・高失業率社会の到来である。①増加する非正社員がますます不安定化すること、②リストラの憂き目に遭遇する正社員は少ないと予想されるものの、少ない正社員の労働負荷はますます重くなり、人材の劣化が進むこと、③その一方で、人口減少で人手不足が続き、業種によっては今でも人手不足基調となっていることから、雇用が不安定化・流動化している一方で、必要な産業・職業に十分に人材が供給されていないという「雇用のミスマッチ」が生じていることである。

第二に、雇用のミスマッチの背景には「産業構造の転換」という大きな課題が存在することである。今回の金融危機でも、アメリカへの輸出と製造業に依存した産業・雇用構造を転換しきれなかったことが大きく響いている。内需主導・新産業の創出などが実現していれば、ここまで金融危機の影響は深くなかったはずだし、雇用失業情勢も悪化しなかったはずである。第三に、企業に雇用創出・維持を安易に依存できないことである。金融危機後の世界では企業の存在自体が非常に不安定化している。そのため、企業がいつまでも雇用を抱えているという前提の政策は難しい。正社員・終身雇用体制がどれだけ安定したものだとしても、企業の存在自体が不安定化すれば意味がないことは冷静に認識すべきだろう。

第四に、人口減少・高失業率社会などの課題に対して、政府主導の統一的な政策が見出せないことである。これまで見てきたように、雇用問題に対する企業の対応は千差万別である。終身雇用を維持しようとする製造業もあれば、中途採用を増やそうというサービス業もある。あるいは、正社員をあくまで中心に置く企業もあれば、多様な正社員制度を作ったり、非正社員を重視したりする企業もある。企業に応じて、どういう人事労務管理が合理的で比較優位になるのかは異なっている。企業だけではなく、働く側の意識も多様化していて、すべての人が正社員として働きたいと考えているわけではないし、「みんなで連帯して労働条件の改善を勝ち取ろう」という連帯感が働く人々の間に生まれているわけでもない。

その一方で、特定の働き方(典型的には大企業の正社員)だけを普通視するような政策に対しては、感情的な反発が強まることが予想される。それは昨今の公務員バッシングを見れば容易にわかる。公務員バッシングの背景には、公務員の不祥事という問題もあるが、最大の要因は官民の労働条件の乖離に対する感情的な反発である。このような情勢を考えると、「正社員・終身雇用制度だけが正しい働き方だ」という前提で、政府がすべての企業・労働者に「単一的で統一的な雇用政策」を強いることは難しいし、それは適切でもないということである。