国際的な信用秩序を強化

「最終の貸手」としての機能の最大の実際的問題点は、流動性と支払能力の区分である。教科書的には、中央銀行の「最終の貸手」としての役割は、市中金融機関の流動性上の問題に対処するために資金を供給することであって、支払能力まで支援することではないであろう。しかし、現実には、流動性の支援で終らずに、支払能力の支援にまで延長することもありえようし、当初から支払能力の支援になる可能性を懸念しながらも、流動性の支援を始めざるをえない場合もあろう。また、流動性のみならず支払能力まで支援する可能性が高くても、中央銀行自体が全額は介入せず、援助必要額の一部または全額について、市中金融機関の自主的協力を要請するという場合もあろう。

いずれにしても、支払能力の支援にまでたちいたった場合には、財政上ないし法制上の措置が発動されない限り、中央銀行の信用供与に結末をつけることはできまい。といって、緊急の場合には、流動性の援助であれ、支払能力の援助であれ、市中金融機関の協力を求める場合であれ、迅速な決断が必要となる。平時において、銀行監督面で右のような非常事態が起こらないように注意することは、もちろん肝要であるが、平常から非常事態を想定して危機管理の準備を整えておくべきであろう。

「最終の貸手」としての機能が国際的に発動されなくてはならなくなった場合、たとえば、自国の金融機関が他国の市場で流動性上の問題を生じた場合などには、そのときの状況次第とはいえ、問題の生じた国の中央銀行の支援を要する場合もありうるので、日ごろからの緊密な連絡、意見や情報の交換が不可欠である。

八〇年代の途上国の債務危機に際して、日銀を含む主要国の中央銀行は、問題国中央銀行に対するBISの借款に参加したが、この国際協力は、問題国の国際収支のファイナンスに対する支援であったと同時に、問題国経済を強化することによってこれに貸し付けていた諸国民間銀行の債権を補強し、国際的な信用秩序を強化しようとするものでもあった。もっとも、参加国中央銀行自体としては、次のような方式で、支払能力の支援まで行うことを極力回避した。第一に、借入国がIMF引出しを実行するまでのつなぎ融資に限ることが通例であった。中央銀行側の借款が成立する時点までには、少なくともIMF事務局が借入国のIMF引出しについて肯定的な見解を示していることが中央銀行側の支援の要件となっていた。第二に、BISが一次的貸手となり、国際金融市場から資金を調達して貸付を行い、主要国中央銀行はこれを保証するにとどまった。