インフレーション・ターゲティング

一定のインフレ率を中長期的に達成するためには、中央銀行は数量的な経済予測とシミュレーションを行い、その結果に基づいて政策金利の誘導水準を機動的に見直すといった行動をとる必要がある。その際に、どれくらいの期問をかけて公約を実現するかに関して、中央銀行が一定の裁量の余地をもつことは可能で、公約達成への国民からの信認が失われない範囲では、一時的な物価ト昇を許容して景気に配慮した政策運営を行うことも短期的には認められる。大まかにいって、このような枠組み(framework)に基づいて現代の金融政策は運営されているといえる。

ただし、中長期的に達成されるべきインフレ率の水準についての公約をどの程度まで明示的かつ数量的に示しているかについては、各国の中火銀行で多少の濃淡の差はある。目標とするインフレ率の値(またはその幅)を数値的に約束している場合には、こうした枠組みはインフレーション・ターゲティングと呼ばれている。

インフレーション・ターゲティングに関しては、インフレ目標政策と称して、日標とするインフレ率を実現するためには手段を選ばない姿勢のことにように主張する向きが、一時期のわが国ではみられたけれども、そうした理解の仕方は全くの間違いである。インフレーション・ターゲティングの本来の意味は、中央銀行がその意図を数量的に示すことによって、金融政策運営の透明性を向上させることにある。

インフレ目標を採用しているのは、英田、カナダ、ニュージーランドスウェーデンなどの中央銀行とECBである。これに対して、米国のFRB日本銀行は、明示的なかたちではインフレ目標を採用してはいない。しかし、その金融政策運営の枠組みが、明示的にインフレ目標を採用している国々の中央銀行と決定的に異なるわけではない。むしろ実質的には両者の間の共通性はかなり高いといえる。

日本銀行も、「目標」ではないとしながらも、審議委員が中長期的にみて安定していると考える物価上昇率を「物価安定の理解」として公表しており、その水準は現在のところ「消費者物価の前年比上昇率が二%以ドのプラスの領域」とされている。また、米田連邦準備法は「雇用の最大化」を「物価の安定」と並んで金融政策の目標として規定しているけれども、雇用の最大化は、自然失業率を実現することと解釈することは可能である。