円の国際化

日本は、自らよって立つ足場を固めた後に、懸案の国際社会における日本の出口を見出すことができるだろう。経済的問題としては、日本の金融機関の破綻によって、東南アジアや中国に波及した金融危機を処置しなければならない。それは日本に与えられた国際的義務である。それによって本当の意味での円の国際化も進む。円の国際化というのは、イタリアのレストランで円か利用できるようになることを意味しているのではない。円の価値が国際的に認知され、資産として円を保有する人が増えて、初めて円の国際化が進んだと言えるのである。

一九八四年に、ユーロ市場で初めて円建て債券が売り出されて以来、円の国際化という言葉が急速に使われ始めた。確かにこのことは、日本の金融自由化を進めるうえで画期的な出来事であった。しかしユーロ市場でのユーロ・円の取引の主体は日本の銀行、商社であったのである。日本の金融市場がヨーロッパに出張したような取引は真の国際化とは言えない。

円の国際化のバロメーターは、各国の外貨準備資産の中で、円の保有率が高くなることである。ドル、ユーロとならんで円を三大基軸通貨に数えてくれる人もいる。しかし外貨準備資産の保有水準では、円はマルクにも遠く及ばない。

円か国際取引にそれなりに使われてきたのは、円かドルと長年深い関係にあったからである。円とドルは、為替市場でこそ反発しあうが、基軸通貨としては相互に補完関係にあった。ドル危機が進行したとき、不安を覚えたヨーロッパ諸国がドルを売って金保有を増やしたときにも、日本はこの動きに同調せず、「動かざること山のごとし」であった。

経済論理としてはこんな危険なことはない。金の裏づけを失ったドルは、ただの一国通貨に転落する危険にさらされていたのである。当時としては、日本の選択肢は「ドルと心中」する以外になかったかもしれない。しかし今は時代が違う。日本はこれまでのようなドルとの関係を清算しなければならない。