成功にはグループ全体の底上げが不可欠

親会社に対する金融商品の供給や、過去は親会社の余剰資金を運用する補助機関としての性格が強く、運用報酬も低く抑えられ資産運用会社単独の収益性はあまり重視されませんでした。コングロマリットの観点で資産運用会社は、金融商品の製造部門としては極めて重要ですが、金融再編の主役とはなりにくいといえます。異質な企業同士の再編は、経営の目が行き届かなくなり、ガバナンスが機能不全に陥る可能性があります。銀行と保険・運用会社は「製販分離」の関係が維持されるとともに、銀行による再編・買収は起こりにくいと考えます。

メガバンクの業務純益は一兆円規模であり、業務分野も多様です。グループ全体の収益力の強化は、最終的に銀行を中心とした全分野における収益の底上げであると考えます。特に、コングロマリット化成功の最低限の条件として、銀行白身の収益力の強化は不可欠となります。大手銀行の業績は、巨額の赤字が続いた数年前からは様変わりとなりました。不良債権処理額が減少したたけでなく、過去に積み増した引当金では戻入益も発生しています。しかし、引当金の戻入益は一過性です。本業の業務純益は伸び悩んでいます。経営環境が安定化したことで、最近市場では一段と銀行の業務純益の拡大に対する関心が高まっています。銀行の業務純益が拡大するシナリオは、金融サービス販売力の強化です。その成否はリテール分野において明確に現れます。

第一は、個人分野の拡大です。メガバンクにとどまらず、銀行を通じた投資信託や保険の販売が好調です。大手銀行の二〇〇五年三月期の手数料収入などの役務取引等利益は連結で二兆一八五三億円、前年比一五・三%増と好調を記録し、貸出の減少や債券トレーディング益の低迷をカバーしました。特に、銀行を通じた株式投資信託の販売残高は、一九九九年て一月に販売を開始して以来、拡大が加速しています。銀行の販売シェアは、証券会社を上回るまでになりました。株式投信に類似した商品である変額年金保険の販売も、銀行が始めた二〇〇二年一〇月からほぼ倍々ゲームの勢いで拡大しています。

こうした銀行が販売する投資商品の資金の出所は預金の取り崩しではなく、五〇代世代の退職金などの新規マネーが流れ込んでいます。株価の回復や超低金利の長期化も追い風となっています。団塊の世代の大量定年は今後数年間続くことが予想され、戦後の日本経済の発展を支えた世代は、銀行のリテール顧客の主役でもあります。銀行による投資信託販売と手数料収入の拡大が続く状況は、一九九〇年代後半のアメリカの銀行に通じるものがあります。アメリカの銀行は、貸出などの金利収入を、手数料などの非金利収入が上回り、結果として資産拡大によらない収入増と収益力の向上を実現しただけでなく、リテール事業を収益の柱に変えました。

第二に幅広い意味でのリテール業務としての中小企業分野です。銀行の本業である貸出業務を再構築するうえで、重要なカギを握っています。大手銀行の貸出のうち中小企業向けは大企業貸出と同じ約四〇%を占める大きな顧客層です。しかし、これまで大手銀行は中小企業を重点分野としながらも、明確な攻め手を欠いていました。しかも、銀行批判の象徴でもあった「貸し渋り」や「貸し剥がし」の批判の多くは、大企業ではなく中小企業から寄せられたものです。一時は大手銀行と中小企業との関係は非常に悪化しました。さらに銀行に対する中小企業の根強い不満に、担保主義があります。歴史の浅い企業ほど不動産などの担保が少なく、昔から資金調達に苦労するケースが少なくありません。