きめ細かな配送体制で定時配送をも可能にした

九四年三月、テキサス州ダラス近郊にあった伊藤忠商事プリマハムが共同出資で設立したプライムーデリ社のサンドイッチ工場が舞台となった。まず山崎製パンの現地子会社が出来たての食パンを、米大手食品メーカーのフィリップーモリス傘下のクラフトーゼネラルーフーズ社が具材を提供し、三井物産がプラスチックのパッケージを担当した。すべての商材がプライムーデリに集まってサンドイッチ、野菜サラダなどを「セブンイレブン」に供給する体制にした。従来はプライムーデリの冷凍パンを使っていたが、これを鮮度重視の商品に変えた。

プライムーデリの工場の脇には共同配送センターを併設し、ここで牛乳などの日用品と一緒にダラス地区の「セブンーイレブン」に配送した。ダラスでの実験が好調だったことから、日米の取引先の協力を得ながらペンシルベニア州ニュージャージー州などへ同様な取り組みが広がった。チームMDにおいては、材料を供給するメーカーは素材の品質に、製造を担当するメーカーは品質と味に、そして配送業者は品質を劣化させることなく定時配送することに責任を持つ。そして「セブンーイレブン」は品質、味のいい商品を責任を持って売るという明確な役割分担の仕組みを作り上げた。

サンドイッチの専用工場と並行する形で進んだのが、マクレーンとの連携により実現した共同配送センターの建設だった。メーカーや取引先がバラバラに「セブンーイレブン」に配送する非効率を排除し、一台のトラックの積載率を高め、なおかつきめ細かな配送体制で定時配送をも可能にした。メルカー直送が主流の米国では、共同配送の取り組みはその成否も含めて流通業界の注目を集めた。地道なサウスランド社再建を支える人物の一人として、伊藤忠商事の沢田貴司(現企業再生ファンドのリヴァンプ共同経営者)がいた。沢田は日米のセブンーイレブンの物流や商品開発の支援メンバーとして業務をこなしていた。

物流ではタイヤの減り具合、配送ルートの違いによるガソリン消費の違い、垂直統合のチームMDによる商品開発の現場を見ていた。大味な商社ビジネスとは比較にならないミクロの積み重ねに「小売業のおもしろさを感じた」という。日米のセブンーイレブンでの経験をさらに生かしたいと考えたのが、ファーストリテイリングへの転職のきっかけとなった。サウスランドは一連の営業改革などにより、九三年度決算では純利益が七千百二十万ドルとなり、五期ぶりに黒字決算となった。ただ米国の流通インフラを変えると意気込んだものの日本のセブンーイレブンが流通業界の常識をことごとく覆したほど、順調に米国流通を変革させるまでには至っていないのは事実だ。

いろいろな事情がそれを阻んでいる。日本の「セブンーイレブン」に陳列している商品の九九・九九%は本部が推奨する商品で、そのすべてが共同配送センターを経由して店に届けられる。だが、サウスランド社では店頭にある商品のうち本部推奨は五〇%程度にとどまっていた。加盟店主が地元の取引先から仕入れるのは日常的。またポテトチップス、コーラ、ビールなどはメーカーの力が依然として強く、自らが持つ配送網を活用し、直接「セブンイレブン」に納入するルートーゼールス体制を敷いている。サウスランド社は共同配送の効率化を進めるためにコカーコーラなどに共同配送への協力を呼びかけた。