転職は本当にキャリアアップか

世の中はいままさに不況のまっただなかでリストラの風が吹き荒れている。人企業が何千人、何万人の人員削減計画を毎日のように発表している。ただ、いまのところは、リストラ対象は事務職が中心でSEのようなIT関連の技術職にはまだ被害が及んでいない。SEの世界だけは安泰と見て、事務職からSEへ転向する転職者も多い。

だが、リストラの波は必ずSEの世界にもやってくる。それもそう遠い話ではない。そのとき「勝ち組」に入れるかどうかが、SEとしての人生の明暗を分けることになる。いまからでも遅くはない。発想を転換して、「勝ち組SE」として生き残ってほしい。

IT業界では転職が日常茶飯事だ。かのビルーゲイツも天下のIBMから独立してマイクロソフト社を起こしたのだし、ひとつの企業に二、三年しか在籍せず、一〇回前後の転職をくりかえしている技術者も珍しくない。企業経営のトップであるCEOクラスでも、ヘッドハンティングなどで他企業から移籍してくるケースが多い。

このような傾向は、いまに始まったわけではない。昔からSEの世界では転職が盛んだった。ITバブルによって、旧来からの流れに拍車がかかっただけである。これはある意味で当然のことだ。経験豊富で真に優秀なSEは限られているので、企業はこの希少な人材を奪い合うことになるからだ。もちろん、これらのSEは「勝ち組SE」ということになる。

いうなれば、これまで転職はごくわずかな優秀な人材だけに許された特権だった。これら「勝ち組SE」は自分自身であえてキャリアアップだとか収入アップだとかを意識しなくても、企業側から声がかかり、引き抜きに近い形で業界内を行き来していたのである。だから、その他大勢の普通のSEたちはさほど転職を意識してはいなかった。

だが、これからは少し事情が違ってくる。巨大保守業務時代、そしてSEリストラ時代を迎えるとなると、すべてのSEの足元が危うくなるからだ。そして、生き残りの術として転職が浮上するのである。現在の業務で閑職や保守業務に回されたりして耐えきれなくなったSEが、転職に活路を求めることになる。