勝ち組SEをめざせ

わたしの経験した職場には、まさに個性の塊のような人物が何人かいた。それぞれが自分なりの意見や価値観を持っていて、それに固執するので、会議では論争が絶えなかった。だが、それをまとめる上司にあたる人物も輪をかけて個性的な人物だったので、収拾はむずかしいと思われた場面もなんとかまとめることができていた。過去形で書いたのは、年を重ねるにつれて、そのような個性的なSEが少なくなっていったからである。

いまの人材は、SEに限らず画一的である。没個性という言葉がぴったりとあてはまる。なぜだろうか。教育の問題だと言う人もいれば、社会システムの問題だと言う人もいる。原因は定かではないが、個性的になれないということは、自分だけの夢やビジョンを持っていないことの表れではないだろうか。

仮に新たな会計システムを開発するとして、その開発方法論やスケジュール、体制、採用技術などを決める企画設計段階では、極端に言えば一〇〇人いれば一〇〇通りの提案がなされておかしくないはずである。SE自身が、その会計システムに抱くビジョンや完成イメージは本来みな異なるはずだからだ。だが実際には、二、三の意見が出されるだけで、さはどの議論も交わされることなく、いちばん無難な線に落ち着いてしまう。先ほど述べた個性的な人たちなら、一週間ぶっ続けでけんかになるほど白熱した議論を展開しただろう。

議論にならないということは、SEが夢を持っていないということだ。だが、夢を持たないSEは「勝ち組」には入れない。平均点しかとらず、個性のかけらもないSEはその他大勢というグループに埋没していくだけなのである。

ここでは、今後のきびしい時代を生き残るために身につけるべき能力について述べてきた。仕事師としての本質的能力を中心に述べたので、テクニカルな助言を期待していた人には、いささか期待はずれだったかもしれない。だが、技術の取得や向卜をめざす者には、そのための書籍や参考書が山ほど出回っているのでそれらを読めばよい。問題は、向上させた技術を仕事に活かすことである。本章ではそのための基本的なスタンス、発想の転換について述べたつもりだ。