EC共通農業政策の成功

ECの予算の中で農業予算が大きなウェイトを占める事実は、ECがいかに共通農業政策を重視していたかを物語っている。対外的には、EC農産物を保護するための境界価格が設定された。

境界価格はデュイスブルク標準価格から代表的な輸入地ロッテルダムヘの運賃、その他諸経費を差し引いた水準に設定される。輸入品のCIF、運賃・保険料込みの価格が境界価格以下になると、その差額が課徴金として徴収される。

この課徴金政策は、安価な国際農産物のEC流入を阻止するのに威力を発揮した。輸入品の価格水準に応じて変化する関税と違って、固定したEC価格が基準となる課徴金制度の下では、ECへのダンピング輸出も難しくなる。こうして、域内統一価格の設定による農産物価格支持制度は、加盟各国の農業所得を保証し、引き上げるという実績を残したのであった。

共通農業政策のもう一つの柱、農業の構造改革政策は、長期的に見れば、より重要な意味を持つ。経営規模の拡大、機械化を軸とする農業近代化は、共同体政策の最重要課題である。農業近代化なくして産業統合もあり得ない。1972年にECは農業近代化計画の指令を採択した。

EC農業問題にとって最大の構造問題は、農業従事者の離農問題である。農業の近代化は生産性を向上させ、離農者を増やす。事実、戦後まもなくの時期に2,000万人近くあった農業人口は、1970年代を通じて着実に減少し、1980年代には700万人台にまでなったのである。

EC共通農業政策の成功は、その反面、国際的な紛争を巻き起こすことにもなった。とくに世界最大の農産物輸出国アメリカとECとの対立はガットのウルグアイ・ラウンドにおいて頂点に達した。アメリカの過剰農産物が安値で流人する事態に対して、ECの農業所得を保証する正当な価格を維持するために課徴金制度を創ったのだというのがECの言い分である。